N.Focus ディーセント・ワークとジョブ・クラフティング 小さな工夫で生き生きと働ける職場へ




ディーセント・ワークとジョブ・クラフティング

小さな工夫で生き生きと働ける職場へ

 


山住 康恵●やまずみ やすえ

共立女子大学看護学部 准教授

 

[略歴]1994年より福岡県内の総合病院で勤務、2009年福岡県立大学看護学部助手、2012年同学部助教、2013年防衛医科大学校医学教育部看護学科講師、2016年共立女子大学看護学部専任講師を経て、2019年より現職。専門は看護管理、看護教育。

 


 

日々の業務に追われて見失った仕事のやりがいを、どう取り戻せばよいのか。働きがいを持って働くための視点として、「ディーセント・ワーク」と「ジョブ・クラフティング」の考え方を、実践例とともに紹介します。

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【Book Selection】新刊書籍のご紹介


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〈新連載〉わたしの推し本(1)


第 1 回『新装版 嘘の効用』

 

著者:末弘 嚴太郎 価格:2,640円(税込み) 発行:日本評論社

 


今月の推し人

 

任 和子

京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻 先端中核看護学講座生活習慣病看護学分野 教授

 


 

正論の板挟みに遭い、組織の硬直化にため息をついたことのない管理者はいないだろう。私は2011年から京都大学大学院で教授を務めているが、それ以前は京都大学医学部附属病院で副看護部長・看護部長を計6年間経験した。大きな組織のかじ取りを担う中で実感したのは、マニュアルや正論といった定規だけではかりきれない、人と人とが織りなす現場の奥深さと、それを整えることの難しさであった。そうした管理職としての私の長年の葛藤を、静かに言語化してくれたのが本書に収められた随筆「嘘の効用」である。

 

社会を回す“ゆとり”としての知恵

著者の末弘嚴太郎氏は、大正から昭和にかけて活躍した法学者である。本書で彼は、一般に悪とされる嘘が、実は法律や社会を円滑に動かすための重要な擬制(フィクション)や潤滑油として機能していることをユーモアたっぷりに論じている。

 

正直は美徳だが、実態に即さない厳格なルールを現場に強いれば、スタッフの自律性は失われ、結果として組織の活力を削ぐ。硬直した法律(ルール)と、変化し続ける複雑な人間社会。その間にあるギャップを埋めるためには、機械の「遊び」に相当する、適度な“ゆとり”が必要なのだ。

 

本書に出合ったのは、新装版が出版されたころであった★1。管理職時代から抱えていた後ろめたさの正体が解き明かされたように感じた。例えば、スタッフAがBの「言い方のきつさ」に悩み、一方でBはAの「仕事の雑さ」にいら立っているとする。管理者は両者の思いを受け止め、組織としての調和を保つために、対話を重ね、着地点を探る。こうした振る舞いは決して八方美人的な態度ではなく、相反する要素が絡み合う連立方程式を解くような、高度な知的作業なのである。

 

組織を救う「伸縮する尺度」

末弘氏が説く「規則的に伸縮する尺度」という考え方は、建前に縛られがちな組織を救う示唆に富む。医療現場において、安全を守るマニュアルは不可欠だが、それが現場の状況を無視した守れないルールの押しつけになってはいないだろうか。

 

末弘氏は「子どもに嘘つきが多いのは、親が頑迷な証拠」と述べている。これは、原因をスタッフ個人の資質に求めるのではなく、組織のルールの「硬さ」に目を向けてみようという、管理者への示唆に富んだ提言である。管理者の役割は、正論を振りかざすことではない。ルールやマニュアルという公平な尺度を持ちつつ、状況に応じて納得感のある“伸縮”をさせていくことだ。管理者が遊びを認め、現実的な解を見いだすその柔軟性が、スタッフが安心して誠実に働ける環境をつくる。

 

組織の壁に突き当たり、閉塞感を覚えたとき、ぜひこの古くて新しい名著を開いてほしい。そこには、しなやかに組織を導き、管理者をやさしく包んでくれる、自由で温かな知恵が詰まっている。

 

1 本書1980 年刊『末弘著作集Ⅳ』 底本とし、新装版として 2018 刊行された

 

→看護2026年3月号掲載

 


コミュニティケア冬号 寄稿

語りは重層的です。ある人のものがたりが語られるとき、記憶される経験が時を経て感じ方や考え方を変え、時にその人のものの見方を新たな視野へ、次の成長へと導いていきます。

 

嶋守 さやか しまもり さやか

桜花学園大学教育保育学部 教授

 

金城学院大学大学院文学研究科博士後期課程修了、社会学博士。著書に『孤独死の看取り』『虐待被害者という勿れ 虐待サバイバーという生き方』(新評論)などがある。2025年11月、研究テーマ「生ききるケアを生きる──よい訪問看護とは何か」を基に書き下ろした、『訪問看護ものがたり ご在宅の力』(同)を刊行。

 


 

看護とことば「ちょっと、やっぱり」

 

看護師たちの“語りの揺れ”

 

昨年の11月に『訪問看護師ものがたり ご在宅の力』を上梓しました。6人の訪問看護師へのインタビューをもとにしたこの書籍には、「人として生ききる」ことを最期まで諦めない人々に「沿う」ことで生まれた訪問看護師の語りが収録されています。社会学者として現象学的質的研究に取り組む私にとっては、一人の語り手によって語られる内容の順序や繰り返し、癖や言い淀みなどの“語りの揺れ”が、分析のための重要な手がかりとなります。それらを丁寧に追うことで、一人ひとりの看護師によって生きられる経験世界のかたちが見えてくるのです。

 

本稿では、そんなインタビューの中で、ある病棟の看護師が自身の看護についてどのように語ったのかを示したいと思います。その看護師をここではEさん(50歳代)と呼びましょう。彼女が過ごしてきた病棟での日常で何を目にし、どのように心に留め、自身の看護観に連動させていったのか。それを「ものがたり」、つまりEさんのナラティブ分析として描いていこうと思います。

 

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コミュニティケア冬号 特集2 1.総論②

持続可能な保健医療制度のために、看護の専門性とプライマリ・ヘルス・ケアの理念を体現する訪問看護ステーションの重要性について解説します。

 

喜多 悦子 きた えつこ

笹川保健財団 会長

 


 

ますます存在が重要になる
訪問看護ステーション

 

日本では、世界に類を見ない速度で超高齢化と少子化が同時に進行しています。そのような社会状況の中で、高齢者は明確な疾患がなくとも、加齢に伴う心身機能の低下により、日常生活において体調不良や将来への不安を抱えやすくなっています。

 

1961年に確立された国民皆保険制度は、「誰でも、いつでも、どこでも医療を受けられる」体制を実現し、日本の平均寿命の延伸と健康水準の向上に大きく寄与してきました。一方で、その利便性は、軽微な体調変化や不安に対しても医療機関を受診する行動を常態化させた側面を持っています。長寿社会を実現した半面、高齢化の進行と相まって医療費や介護・福祉関連経費は急増し、現役世代の負担や国家財政に深刻な影響を及ぼしています。政府はさまざまな対策を講じてきましたが、社会構造の変化はそれを上回る速度で進行し、増え続ける高齢者と社会的コストに、いかに対応するのかが問われています。

 

本稿では、今後ますます必要性と重要性が高まる訪問看護ステーションの開設1)に着目し、「日本財団在宅看護センターネットワーク」構築の経過2)を踏まえながら、近年の知見を基にその意義とあるべき姿を論じます。

 

訪問看護ステーションが担う

幅広い役割

 

病院中心の医療提供体制は、財政的にも人的にも限界に近づいています。少子化の進行により、医療・介護・福祉分野における人材確保が困難となる中、医療の重心を病院から地域・在宅へ移行させることは不可避となっています。

 

政府は地域包括ケアシステムを推進してきましたが、医療施設依存型の意識はいまだ根強く残っています。一方で、過疎化が進む地域では医療機関が存在していても、通院手段を持たない、あるいは経済的理由により受診が困難な高齢者が制度から取り残されつつあります。高度医療は病院が短期間担い、その後は速やかに在宅へ移行し、生活の場で継続的に医療と看護を提供する体制の構築が不可欠です。

 

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