第 7 回
『考える力をつける3つの道具
かんたんスッキリ問題解決!』
価格:1,540円(税込) 発行:ダイヤモンド社
今月の推し人
任 和子
京都大学大学院 医学研究科人間健康科学系専攻
先端中核看護科学講座生活習慣病看護学分野 教授
片づけから始まった、頭の中の整理
私が『考える力をつける3つの道具』を知ったのは、当時高校生だった娘の部屋の片づけがきっかけでした。思春期の子どもの部屋には、本人なりに大切なものがあふれています。それを整理していくうちに、片づけとは物を減らすことではなく、「何を大切にしたいのか」を見えるようにする作業なのだと気づきました。もっとも、捨てるか残すかを一つひとつ自分で決めることは、当の娘には刺激が強すぎたようで、社会人になった今も折に触れて話題に上ります。
そのとき、手伝ってくださった整理収納の専門家の方が「頭の中の整理にもTOC★1の考え方が役立ちますよ」と教えてくださいました。TOCとは、物事がうまく進まないときに、全体の流れを妨げているものは何かを見つけ、全体最適を考えるための理論です。名前だけ聞くと難しそうに感じますが、本書には「4歳でもできる」と書かれていました。4歳の子どもでも、もやもやしたことを筋道立てて考え、自分なりの答に近づけるのだということが私にはとても衝撃的でした。
日々の小さな意思決定に使う
本書には3つの思考ツールが紹介されていますが、私がもっともよく使っているのが「もやもや解消」の考え方です。何かが引っかかるとき、すぐに結論を出さず、まず「本当は何を表現したいのか」と、目標を少し遠くに置いてみます。そして自分の考え、相手の考え、それぞれの背景にある前提を書き出し、「なぜならば」とつないでいきます。すると、対立して見えたものが少しずつほどけていきます。
この考え方は、大きな課題だけでなく、日々の小さな意思決定にも役立ちます。例えば実習で、学生が車いすを単独で押すことを認めるか、認めないか。患者安全を守りたいという思いと、学生に経験を積ませたいという思いは、どちらも大切です。そこで、何を避けたいのか、何を育てたいのか、その背景にある考えを言葉にしてみます。すると、単に「押す/押さない」を決めるのではなく、どのような条件や支援があれば安全に学べるかを考える糸口が見えてきます。
本書を読んで心に残っているのは、自分で論理的に考えて答を見つけ出すことこそが、人が学ぶ道だという考え方です。管理者は、時に答を求められる立場です。しかし、すぐに答を示すことがいつも最善の支援とは限りません。相手が自分で出した答に自分の言葉で納得できるよう伴走することもまた、管理者の大切な役割なのだと感じます。
この本を読むと、もやもやすることが少し怖くなくなります。対立も、失敗も、考えを深める手がかりになります。人や組織を支える立場だからこそ簡単には答の出ない問題に直面したとき、私は今もこの本を手に取ります。
★1 制約条件の理論(Theory of Constraints)
にん・かずこ◉看護学を専門とする研究者。京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授を務め、日本看護協会副会長として、専門職能の発展、政策提言にも尽力している。
→看護2026年9月号掲載











